
年々大型化する台風や、頻発する大雨…ニュースで被害の様子を目にするたび、ご自分が被災したらどうしたらよいのか考える方も多いでしょう。「もし家が浸水したら、どうやって片づければいいんだろう…」と不安を感じることもありますよね。
この記事では、被災後の片付けの中でも浸水した家電の処分方法を解説します。浸水直後にやるべきことから被害状況の撮影方法、災害ごみの搬入方法まで順を追って紹介していますので、いざというときのためにご覧ください。
浸水した家電はもう使えない?
水害によって水に浸かってしまった家電を使い続けることはできません。使おうとして電源を入れると、火災・感電を起こすリスクがあるためです。
水には、電気を通す性質があります。そのため、浸水した家電を通電すると、本来は絶縁されている箇所にまで電気が流れてしまいかねません。電気回路のショートや異常な発熱・発火によって、やけどや怪我を負う可能性もあります。
「浸水しても、乾かしたらまた使えるのでは?」と思う方も多いかもしれません。しかし、たとえ家電を乾かしても、入り込んだ水や不純物が内部に残っている可能性が高いです。もし1度作動したとしても思わぬ事故の原因になりかねないため、使用せずに処分する方がよいでしょう。
【参考資料】
台風・水害のとき|電気事業連合会
その他「2.浸水した家電製品から発火」|独立行政法人 製品評価技術基盤機構
家電が浸水したらまず電源を切る
災害時に家電が浸水したら、何よりもまず電源プラグをコンセントから抜いてください。厚手のゴム手袋をつけ、感電対策を施したうえで作業しましょう。
ほかの品物が邪魔をしてコンセントに手が届かない場合は、周囲のものを取り除いて無理なく電源プラグを抜ける状態にします。もしそれもできない場合は、その家電がつながっているブレーカーを遮断してください。
また、自宅から避難するとき、停電したときにも家電は電源オフにしましょう。停電が復旧して通電した際に、電気機器や配線が発火して火災に発展するケースは多いものです。さらに、電力が復旧して家庭内の家電が一斉に再稼働すると、ヒューズやブレーカーが飛ぶ可能性もあります。
まだ電気が使える状態で避難する場合も、停電や長期避難に備えて家電の電源を切り、ブレーカーを落としておきましょう。いざというときに慌てないよう、ブレーカーの位置と切り方を確認しておくと安心です。
【参考資料】
家電製品の災害時の注意点|一般社団法人 家電製品協会
通電火災に注意しましょう|諏訪広域連合
屋外にある「エアコンの室外機」が浸水したら?
エアコンの室外機は、雨に濡れることを想定して設計されているため、水濡れには強いです。しかし、水に浸かるとやはり漏電・感電のリスクがあります。
室外機が浸水した状態でエアコンを使い続けるのは危険です。まずエアコンを切り、次にブレーカーを落として電源プラグを抜きましょう。
もし室外機が転倒しても、自分で起こそうとするのはNGです。むやみに室外機を起こそうとすると屋外と室内をつなぐパイプに負荷がかかり、亀裂や穴が生じることがあります。パイプ内部に充満した冷媒(液体ガス)が勢いよく噴き出しかねないため、大変危険です。
室外機が倒れているのを見つけたら、まずは設置した施工会社やメーカーの相談窓口に連絡するようにしましょう。
処分の前に!浸水した家電を撮影・記録
家電が浸水したら、片づける前に写真に撮って被害状況を記録しましょう。その家電の保証期間内であれば各メーカーから、期限切れでも住宅の火災保険で補償を受けられる可能性があります。
ここでは、家電が浸水した際に受けられる補償や、被害状況を撮影するポイントを解説します。
家電は火災保険の補償対象
家電が浸水した場合、ご家庭の火災保険に「水災補償」を付帯していれば修理・交換のための保険金が下りる可能性があります。
水災補償とは、台風や豪雨・暴風雨などに由来する損害を受けた場合に保険が支払われる補償です。火災保険と同じように、補償対象が住宅の「建物」と「家財」に分かれています。多くの家電は「家財」になりますが、エアコンは「建物」として扱われることも多いです。
水災補償には、被害状況による支払基準が定められています。一般的には次の2つです。
- 建物(家財)の保険価額に対して30%以上の損害を受けた場合
- 「床上浸水」または「地盤面から45cmを超える浸水」によって損害が生じた場合
基準に満たない場合、保険金を受け取ることはできません。スムーズに補償を受けて生活を再建できるよう、ご家庭の被害状況は正確に撮影してください。
また、各火災保険には「特定設備水災補償特約」というオプションもあります。水害によって住宅の空調・冷暖房設備、給湯設備のような「特定機械設備」が被害を受けた場合、水災補償の基準を満たさなくても補償を受けられる特約です。
いざというときに備え、加入している火災保険の契約内容を確認しておくとよいでしょう。水災補償や特定設備水災補償特約を付帯していない場合は、追加やプラン変更も検討してみてください。
【参考資料】
3.損害保険の種類 火災保険 - 防災危機管理eカレッジ|総務省消防庁
水害で被災したときの公的支援と保険請求時の注意点|独立行政法人 国民生活センター
どんな写真を撮ればいい?
被害状況の写真は、水が引いた後、家電を動かす前に撮影しましょう。各種手続きに必要なのは、次の3パターンの写真です。
- 表札や建物名がわかる看板などの写真
- 被害を受けた建物や部屋、家財の全体を撮影した写真
- 損害を受けた箇所の状況が確認できる写真
それぞれ複数の角度から、4~5枚ずつ撮影してください。例えば、リビングに置いているテレビなら、次のように撮影します。
- リビングの全景を複数の角度から撮影
- 被害を受けたテレビ全体が写るように、引きの視点で各側面を撮影
お家の立地に左右されるものの、建物全体の被害状況はすべての方向から撮影するのが望ましいです。また、壁や柱に残った浸水の跡はきちんと写しておきましょう。
被災後、安全面や防犯の観点から「すぐに片付けないと不安…」という方もいるはずです。各種手続き用の写真を撮影さえしていれば、保険金を受け取る前に片づけ始めることができます。また、ご自分で撮影が難しい場合はほかの人に頼んでもOKです。
ただし、修理の見積書と写真で被害状況を判断することになるため、全額補填できない可能性がある点も押さえておきましょう。
【参考資料】
住まいが被害を受けたとき 最初にすること|政府広報オンライン
災害救助法の適用で「特別修理対応」を受けられる可能性も
災害時、お住まいの地域全体に「災害救助法」が適用された場合は、家電メーカーの「特別修理対応」を活用できる可能性もあります。
特別修理対応は、災害救助法が適用された地域の住民を対象とした企業の社会貢献活動です。「自社製品の修理費用減免」「保証期間外の製品にも対応」など、各企業がさまざまな形で生活再建に協力しています。
これまでにも、Panasonicや富士通、タムロンなど、さまざまなメーカーが実施しました。対象製品や内容が企業によって異なるため、お使いの家電メーカーのホームページで実績をチェックしてみてください。
【参考資料】
災害救助法の救助項目及び救助の程度、方法及び期間|内閣府
浸水した家電は「仮置場」へ搬入して処分
浸水した家電のように、自然災害によって発生した「災害ごみ」は、多くの場合自治体が設置した「仮置場」に搬入して処分します。
災害が起こると大量のごみが発生するため、通常のごみ回収では処理が追いつきません。また、いつものごみ収集所やお家の周辺に災害ごみを置いていると、消防車・救急車などの通行の妨げになります。思わぬ怪我やトラブルにつながる恐れもあるため、各市区町村では緊急時に仮置場を設置して災害ごみを収集しています。
仮置場は、災害後数日のうちに設置されます。住宅地近くの公園や空き地などが利用されるケースが多いです。通常のごみ回収と異なり、仮置場に災害ごみを搬入する場合はお金もかかりません。
災害後は、仮置場について自治体からお知らせがないかどうか気を配っておきましょう。
【参考資料】
NHK防災 災害時に必ず発生する「災害廃棄物」 どう向き合う?今からできる対策は?
家電のうち「テレビ・冷蔵庫・エアコン・洗濯機」は分けて処分
仮置場では、浸水したテレビ・冷蔵庫・エアコン・洗濯機をその他の家電と分けておく必要があります。それ以外の家電はまとめて「不燃ごみ」、取り外せるバッテリーや電池は外して「有害ごみ(危険ごみ)」です。
テレビ・冷蔵庫・エアコン・洗濯機の4品目は「家電リサイクル法」の対象製品です。浸水した製品でもリサイクルが可能な場合があるため、仮置場でもほかの家電とは分けて集められます。対象4品目のみ回収日を指定されるケースもあるため、注意が必要です。
仮置場でスムーズに引き渡せるよう、冷蔵庫と洗濯機については中身を出しておきましょう。ただし、冷蔵庫に入っていた食品は「生活ごみ」として通常どおり処分しなければなりません。生ごみとしてまとめ、いつもの回収場所に持っていってください。
【参考資料】
大規模災害で発生した「ごみ」ってどうするの?
ごみの処理は?|水害サミットからの発信
家電を仮置場に搬入する際の注意点
浸水した家電など、災害ごみを仮置場に搬入する際の注意点は以下の3つです。
- 災害に関係がないごみや生活ごみは対象外
- 通常時とは異なる方法で分別する必要がある
- お住まいの自治体以外の仮置場には持っていかない
それぞれを解説します。
災害に関係がないごみや生活ごみは対象外
仮置場に搬入できる「災害廃棄物」は、例えば次のようなごみです。
- 被災して使えなくなった品物
(例)家具・家電、畳、寝具類、衣類や布製品など - 壊れた建物を撤去する際に出てくる「がれき」
(例)木くず、コンクリート、ガラスなど
このように規定されているため、例えば被災前から処分したかった家電などを仮置場に持っていくのはNGです。こうした便乗を防ぐため、仮置場では職員が品物の汚れ具合などをチェックしていることもあります。
また、被災後の暮らしの中で発生する「生活ごみ」も、仮置場には持ち込めません。生活ごみは通常どおりにごみ回収に出してください。生ごみのように長期間保管できないごみを優先的に出し、ほかのごみは状況が落ち着くまでご自宅に置いておくのがおすすめです。
【参考資料】
大規模災害が起きた時の「ごみ」について|飯能市
通常時とは異なる方法で分別する必要がある
災害時でもある程度の分別が必要です。各家庭がきちんと分別することで、地域全体の処理期間が短くできるうえ、悪臭・害虫や二次災害が発生するリスクを低減できます。
しかし、通常のごみ回収とは異なる分別方法を用いる可能性が高いです。先にも触れた通り、いわゆる「対象4品目」以外の家電は、どのような大きさでもまとめて「不燃ごみ」とするケースが多いです。分別方法の詳細は仮置場設置後にお知らせがあるため、情報を得られるように気を配っておきましょう。
【参考資料】
災害廃棄物処理ガイドブック|松本市
災害ごみの扱い方について|近畿地方環境事務所
お住まいの自治体以外の仮置場には持っていかない
災害ごみは、基本的にお住まいの自治体で処理する必要があります。
「親戚が教えてくれたから」「近くの自治体の仮置場の方が近いから」などの理由で、現住所以外の市区町村まで持っていくのはNGです。もし持っていっても受け付けてもらえないため、お住まいの自治体が設置した仮置場を利用してください。
まとめ
水害で浸水した家電の処分方法を解説しました。
台風や大雨によって家電が水に浸かってしまったら、まず電源を落としてコンセントを抜きましょう。感電・漏電や通電火災などの防止につながります。水が引いたら、片づける前に被害状況を写真に収め、メーカーの補償や火災保険の水災補償などの手続きに活用してください。
災害によって使えなくなった家電は、自治体が設置した仮置場に搬入して処分します。街全体がスムーズに生活を取り戻せるように、災害ごみの搬入時にはきちんとルールを守りましょう。