
どのような業界・業種であれ、事業を行うなかで少なからず産業廃棄物は排出してしまいます。産業廃棄物の排出を抑えることも重要ですが、同じくらい産業廃棄物のリサイクルも重要です。感覚的にわかっている方は多いともいますが、具体的になぜ重要なのか、現状はどうなのか、といった部分が気になる方も多いでしょう。
そこでこの記事では、産業廃棄物のリサイクルが重要視される理由から、現状と今後、リサイクルするメリット、事例、リサイクルする際の注意点などを解説します。
目次
産業廃棄物のリサイクルが重要視される理由とは
産業廃棄物とは、廃棄物処理法で定義された20種類の廃棄物のことを表します。例えば、「汚泥」や「廃油」「金属くず」「家畜の糞尿」などです。廃棄物はいわばゴミのことであり、不要になったものであるため捨てますが、その処分方法は焼却や埋め立てが考えられるでしょう。
しかし、廃棄物の量が増え続けると、焼却の場合は燃焼のためのエネルギーを使い続けることになり、埋め立てるにしても場所が足りなくなってしまいます。「廃棄物の排出を少なくする」ということも重要ですが、同じくらい「廃棄物を再利用(リサイクル)する」という考え方も重要です。
廃棄物を処理することによる自然環境への影響や、有限資源の有効活用などの観点からみても、産業廃棄物のリサイクルは欠かせないものとなっています。SDGsへの対応、循環型社会の形成などのためにも、産業廃棄物のリサイクルが重要視されています。
日本の産業廃棄物リサイクルの現状と今後
環境省が公表する「産業廃棄物の排出及び処理状況」を参照すると、令和3年度(2021年)の速報値ベースでは次のようになっています。
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- 排出量:約3億7,056万トン
- 再生利用量:約1億9,694万トン
- 減量化量:約1億6,492万トン
- 最終処分量:約869万トン
排出量の約半分が再生利用できており、最終処分量は2%程度にまでおさえられています。再生利用量は次のように推移しています。
年度 | 排出量 | 再生利用量(割合) |
---|---|---|
平成9年度(1997年) | 約4億1,500万トン | 約1億6,900万トン(40.7%) |
平成14年度(2002年) | 約3億9,300万トン | 約1億8,200万トン(46.4%) |
平成19年度(2007年) | 約4億1,900万トン | 約2億1,881万トン(52.2%) |
平成24年度(2012年) | 約3億7,914万トン | 約2億757万トン(54.7%) |
平成29年度(2017年) | 約3億8,354万トン | 約2億22万トン(52.2%) |
令和3年度(2021年) | 約3億7,056万トン | 約1億9,694万トン(53.1%) |
20年ほど前と比較すると再生利用量の割合は増えていますが、ここ10年ほど横ばい状態です。しかし、SDGsや循環型社会の形成に対する意識の高まりもあり、今後はさらに再生利用率は向上すると予想されます。
産業廃棄物のリサイクル率向上への課題
産業廃棄物のリサイクル率を向上させるためには、社会一丸となって取り組むことが重要です。リサイクル率向上のための課題として、2つの点を解説します。
ゴミ(廃棄物)を減らす
現代は非常に便利になり、モノに溢れています。大量生産・大量消費の時代を経た現在、商品や製品を使い捨てるのではなく、再生資源として利用することで、廃棄物を減らしていかなければなりません。また、はじめから限られた資源を節約して使う、という意識も重要です。身近なところでいえば、プラスチック製のストローやスプーン、フォークなどを利用せず、紙製のものを使用してリサイクルしやすくする、などが挙げられるでしょう。
リサイクルへの意識を向上させる
リサイクルに関する制度は整ってきており、現在は特に一人ひとりのリサイクル意識を向上させることが重要視されています。前述のとおり、企業側はプラスチック製のストローなどから紙製に変更するなどして、使い捨てからリサイクル率を向上させる対応を進めています。しかし、消費者側がそのような対応を受け入れなければ、対策の効果がありません。消費者側もリサイクルへの意識を高め、一人ひとりがゴミを減らす、リサイクルする、という意識を持つことで、社会全体としてリサイクルに取り組めるようになります。
産業廃棄物をリサイクルするメリット
産業廃棄物をリサイクルすることで、企業はいくつかのメリットを得られます。代表的な3つのメリットについて解説するため、一つずつ見ていきましょう。
コストの削減
産業廃棄物を処理する際には、処理費用がかかります。廃棄物の量が多くなるほどコストが高くなるため、コスト削減のためには産業廃棄物の排出量を減らすことが重要です。廃棄物として処理する前にしっかりと分別し、リサイクルできるものがないか確認しましょう。リサイクルできれば排出量を減らすことができるため、コストの削減につながります。
資源として売却できる
コストの削減にもつながることですが、産業廃棄物を資源として買い取ってもらうことも可能です。資源となるものの例としては、金属や古紙などが挙げられるでしょう。また、発泡スチロールなどのプラスチック類も再生資源として売却できる可能性があります。資源として売却できれば、産業廃棄物の処理費用を削減できるだけでなく、利益になるかもしれません。
企業イメージの向上
SDGsに取り組む企業が増えているなか、環境問題に取り組む企業のイメージは向上しています。産業廃棄物のリサイクルは、環境問題に真剣に取り組む姿勢を示すことにもつながり、企業イメージの向上が期待できるでしょう。地球環境に配慮した経営、循環型社会の実現に向けた取り組みは、日本だけでなく世界規模で重要視されています。企業イメージの向上は企業としての魅力を向上させることにもつながるため、産業廃棄物をリサイクルすることによる大きなメリットの一つといえるでしょう。
産業廃棄物のリサイクル事例
産業廃棄物は20種類存在しますが、それぞれどのようなリサイクルが可能なのでしょうか。ここでは、一部の産業廃棄物のリサイクル事例を簡単に紹介します。
廃油
廃油は潤滑油や補助燃料などにリサイクルされます。その他にも、石鹸や飼料としてなど、幅広くリサイクルされています。
廃プラスチック
廃プラスチックは新しいプラスチック製品の材料や、建築資材、衣類などにリサイクルされています。また、固形燃料や化学原料として利用することも可能です。
汚泥
汚泥には有機性・無機性が存在しますが、有機性はおもに食品工場や下水処理場などで発生します。無機性は金属工場や土木工事現場などで発生するものです。有機性汚泥は肥料や炭化物として、無規制汚泥は最制度や土木資材としてリサイクルされます。
木くず
木くずは燃料用(サーマル用)チップや、素材用(マテリアル用)チップとしてパーティクルボードなどの建材、紙などにリサイクルされます。また、セメント製品や敷きわら代替物として再資源化されることもあります。
金属
金属は精錬することで銅やアルミニウム、鉄などの金属を取り出し、再利用します。また、電子機器類から金や銀などを取り出す金属回収もリサイクル例の一つです。
石膏ボード
石膏ボードは建築工事現場での土質改良に用いる固化材としてや、紙くずとして固形燃料にリサイクルされます。
がれき
がれきは路盤材や土木資材としてリサイクルされます。おもに路盤材の場合は再生骨材やアスファルト合材、土木資材の場合は再生砕石として再利用されています。
産業廃棄物のリサイクル方法
産業廃棄物の原則は「リデュース(Reduce)」「リユース(Reuse)」「リサイクル(Recycle)」の3Rです。廃棄物の量を減らす、繰り返し利用する、再資源化する、という意味であり、産業廃棄物を処理するなかで意識して取り組む必要があります。
産業廃棄物の処理は「排出・保管→収集運搬→中間処理→最終処分」という流れです。それぞれ、排出業者、収集運搬業者、処分業者が対応しますが、中間処理までに再利用や再資源化を行います。排出事業者は排出した産業廃棄物を、再利用可能な資源とそうでない資源に分類します。収集運搬業者も同様に分類することもあるでしょう。
処分業者は中間処理で、産業廃棄物の安定化・無害化・資源化などを行い、資源を再度利用可能なものにします。中間処理でも再利用・再資源化が難しいものは、最終処分によって埋め立てや隔離保管などが行われる流れです。
産業廃棄物をリサイクルする際の注意点
産業廃棄物をリサイクルする際には、いくつか注意すべき点が存在します。そのなかでも最低限覚えておきたい4つの注意点を解説するため、一つずつ見ていきましょう。
廃棄物処理法に準拠する
産業廃棄物を処分する際には、「廃棄物処理法」に従って適切に処分する必要があります。リサイクルするにしても、産業廃棄物を取り扱うため準拠しなければなりません。廃棄物処理法については、こちらの記事で詳しく解説しているため、併せてご覧ください。
しっかりと分別する
リサイクルの第一歩は適切に分別することです。排出する産業廃棄物が、どの項目にあたるのかを見極めて対応しなければなりません。例えば、産業廃棄物の項目には「ゴムくず」がありますが、廃タイヤはゴムくずではなく「廃プラスチック類」にあたります。勘違いしやすい物も多いため、一つずつ確認しながら進めましょう。
許可を得ている事業者に委託する
産業廃棄物の収集運搬、処分を委託する場合には、許可を得ている事業者に依頼しなければなりません。産業廃棄物処理法で定められており、無許可業者に委託した場合には排出事業者も責任に問われます。都道府県知事の許可を得ているかどうかを確認した上で、委託するようにしましょう。
マニフェストが必須
産業廃棄物の排出事業者は、排出した産業廃棄物が最終的に処分されるまで管理することが求められます。各事業者に委託することが多くなりますが、その際に利用されるものがマニフェストです。委託基準やマニフェストについては、こちらの記事で解説しているため併せてご覧ください。
まとめ
産業廃棄物の原則は「リデュース(Reduce)」「リユース(Reuse)」「リサイクル(Recycle)」の3Rです。産業廃棄物を処理することによる自然環境への影響や、有限資源の有効活用などの観点からみても、産業廃棄物のリサイクルは欠かせないものとなっています。
日本では排出される産業廃棄物の約半分が再生利用されており、取り組みも進んでいるため今後はさらに再利用率はますと考えられます。リサイクルを行うことで、廃棄にかかるコストを削減したり、企業イメージの向上に繋がったりと、さまざまなメリットを得られます。
産業廃棄物を処分する際には、リサイクルについてもしっかりと考えて対応しましょう。