
2000年頃から「ゼロウェイスト」という言葉を耳にすることが増えました。
しかし実際にどんな取り組みが行われているのか、詳しく知らない人も多いかもしれません。
この記事では、ゼロウェイストが注目されるようになった背景や、世界や日本の自治体が行っている具体的な取り組み事例、そしてゼロウェイストに取り組むメリット・デメリットについて解説します。
目次
ゼロウェイストとは?
ゼロウェイスト(Zero Waste)とは、ゴミをゼロにすることを目指す考え方や取り組みを指します。
ゼロウェイスト国際連合(ZWIA)は、廃棄物を焼却したり埋め立てたりするのではなく、再利用や修理を通じて資源を守ることを「ゴミを出さないこと」と定義しています。
これまでの大量生産・大量消費の社会から脱却し、限りある資源を大切に使い回すために、世界中でさまざまな活動が行われています。
ゼロウェイストを実現するためには、物を作る段階、買う段階、使い終わった後の処理段階すべてでゴミを減らすことが求められます。
例えば、ゴミが出ないように工夫された商品を作ること、必要なものだけを買うこと、資源回収や堆肥化を活用することなど、生産者と消費者の両方が協力して取り組む必要があります。
ゼロウェイストが注目されるようになった背景
2000年頃から広がりを見せたゼロウェイストですが、ゼロウェイストが注目されるようになったのは、どんな背景があるのでしょう。
この章で詳しく見ていきましょう。
ゼロウェイスト宣言
ゼロウェイストの考え方は、米国の起業家、ダン・ナップ氏が提唱した「トータル・リサイクル」というアイディアが元になっていると言われています。
1980年代、ナップ夫妻はカリフォルニア州バークレーで「Urban Ore」というリサイクル業を中心とした事業を始めました。
この取り組みが成功したことで、「トータル・リサイクル」の考え方が広がり、オーストラリアの首都、キャンベラにも影響を与えました。
そして、1996年にキャンベラで「ゼロウェイスト宣言」が出されたことがきっかけとなり、ゼロウェイストの取り組みが世界中に広まりました。
世界中で深刻化するゴミ問題
世界中でゼロウェイストが注目されている理由は、ゴミ問題が深刻化しているからです。
イギリスのある調査会社によると、毎年約21億トンの家庭ゴミが世界中で出されていますが、そのうちリサイクルされているのはわずか16%にすぎません。
また、日本の環境省によると、2021年度に日本で排出された家庭ゴミの総量は約4,095万トンで、1人あたり1日に890グラムのゴミを出している計算になります。
こうした大量のゴミにより、埋め立て地の不足や、環境や健康への悪影響が問題になっています。
特に、プラスチックゴミは大きな課題です。
街中のゴミが海に流れ込み、2050年には海のプラスチックゴミが魚よりも多くなると言われています。
海の生き物がそのプラスチックを飲み込んでしまうことで、海洋生物にダメージを与えており、さらにそれが私たちの食べ物に混ざることで、健康への影響も懸念されています。
このような状況を受けて、私たち人間や他の生き物が安全に暮らすためには、すぐにゴミ問題に取り組む必要があります。
ゼロウェイストは一時的な流行ではなく、私たちの生活や地球の未来のために取り組まなければならない重要な課題と言えます。
ゼロウェイスト実現に向けて各自治体での取り組み事例
この章では、世界や日本の自治体が行っている具体的な取り組み事例を見ていきましょう。
オランダ・ノッテルダム
ロッテルダムはオランダ南ホランド州にあり、人口約64万人の都市です。
2018年7月に「2030年までに廃棄物ゼロを達成し、最大7,000の雇用を生み出す」という目標を掲げたプラン『Circular Rotterdam: New jobs in a zero waste economy』を発表しました。
この計画の特徴は、単にゴミをなくすことを目指すだけでなく、同時に新しい仕事を生み出すことによって、社会問題を解決するチャンスと捉えている点です。
例えば、代替肉のスタートアップや、使い終わったおむつや自動車のタイヤをリサイクルする特殊な技術の開発などがあります。
ゴミが減れば、従来のゴミ処理に携わっていた人たちは職を失うかもしれませんが、新しい技術やビジネスの誕生によって新たな仕事が生まれます。
ロッテルダムでは、ゼロウェイストの取り組みを通じてイノベーションを促進し、その結果どれだけの雇用が増えたかをKPI(重要業績評価指標)として計測しており、この点が他国と異なる特徴と言えます。
ニュージーランド・オークランド
オークランドはニュージーランド北島北部にある、人口約165万人の主要な都市です。
2018年に「2040年までに埋め立てゴミをゼロにする」というゼロウェイスト宣言をしました。
具体的には、リサイクルや生ごみを堆肥にするコンポスト化、再利用(リユース)、材料のリサイクル、そしてそもそもゴミを出さないようにする工夫で、埋め立てゴミを減らす取り組みを行っています。
その結果、2010年から2016年の間に、オークランド市民が出す家庭ゴミの量は、1人あたり平均160kgから144kgに約10%減少しました。
現在、リサイクルセンターの増設や、全世帯への生ごみ回収容器の配布、生ごみ回収サービスの提供など、積極的なゼロウェイスト対策が進められています。
徳島県上勝町
上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロウェイスト宣言」を行い、町全体でゴミをゼロにする取り組みを進めています。
上勝町にはゴミ収集車がないため、住民は自分で町内唯一のゴミステーションにゴミを持って行き、そこでゴミを13種類に細かく分別する必要があります。
また、希望者には布おむつが無料で配られたり、不要になった物を交換できる「くるくるショップ」が運営されるなど、ゴミを減らすためのさまざまな取り組みが行われています。
その結果、2016年にはリサイクル率が80%を超えました。日本全体のリサイクル率が約20%であることを考えると、非常に高い数字です。
熊本県水俣市
熊本県最南部に位置し、約2万3,000人が暮らす水俣市は、2009年に「ゼロ・ウェイストのまちづくり水俣宣言」を行いました。
この宣言では、将来的にゴミを燃やさず、埋め立ても行わないことを目標としています。
具体的な取り組みとしては、家庭用生ごみ処理容器「キエーロ」を無料で貸し出したり、外出時に自分のお箸や水筒を持ち歩く「マイマイ運動」を推進しています。
その結果、市のリサイクル率は約37%に達し、地球温暖化対策への取り組みも高く評価され、水俣市は環境モデル都市にも認定されました。
ゼロウェイストのメリット・デメリット
この章では、ゼロウェイストを進めるメリットとデメリットについて見ていきましょう。
ゼロウェイストのメリット
長期的な視点で見ると節約になる
長期的な視点で見た場合、ゼロウェイストに取り組むことで節約が可能です。
初期投資が必要な場合もありますが、例えばマイボトルやマイバッグ、再利用可能なラップの使用などがその一例です。
例えば、5円のレジ袋に対して、数百円のマイバッグは一見高額に思えるかもしれません。
しかし、毎月10円のレジ袋を5枚使用すると、年間で600円のコストがかかります。
これに対して、マイバッグを数年間使用することで、費用を大幅に削減することができます。
このように、ゼロウェイストのアイテムは、長期間の使用により初期費用を上回る節約効果を発揮します。
ものを大切にすることができる
ゼロウェイストのアプローチでは、物の適切な処理だけでなく、物をできる限り廃棄しないことが基本的な考え方です。
購入の際に「廃棄しないような物を選ぶ」という意識を持つことで、単なる価格の安さに基づく選択よりも、物をより大切に扱う傾向が強まります。
さらに、長期間の使用を実現するためには、リペア(修理)やアレンジ(再利用)などの対応が求められます。
このように、ゼロウェイストの実践を通じて、物を大切にする姿勢が自然と養われます。
ゼロウェイストのデメリット
購入品が高い
ゼロウェイスト生活を実践しようとすると、購入する商品の価格が高い場合もあります。
例えば、ファストファッション。ファストファッションの台頭によって安価でおしゃれな服が気軽に買えるようになりました。
しかし、それらはワンシーズンで廃棄することを前提に作られている場合がほとんどです。
対して価格が高い商品は、高いなりの理由があります。
素材や製法にこだわっていたり、長く着続けられるデザインであったり、長期に渡って使用できる工夫がされています。
確かに価格は高くても、長期的に使用できればコストパフォーマンスがいいと言えます。
メンテナンスに手間と時間がかかる
ゼロウェイストの商品は、メンテナンスが必要で手間がかかることもありますが、長く使うためには大切です。
例えば、服を裁縫して直したり、壊れた鞄や靴を修理に出したりすることがあります。
このように少し手間と時間がかかるかもしれませんが、その分、物に愛着がわいて長く大切に使えるようになります。
まとめ
ゼロウェイストが注目されるようになった背景や、世界や日本の自治体が行っている具体的な取り組み事例、ゼロウェイストに取り組むメリット・デメリットについて解説しました。
自然の資源を無駄にせず活かすことは、未来の環境を守るために重要です。
地域の力を活かした持続可能な生活は、自然環境保護への大きな一歩であり、ゼロウェイストの取り組みは、農業や地域社会に根ざした循環型の暮らしとも深く結びついています。