
2026年1月、廃棄物処理法が改正され、産業廃棄物の処理や契約に関する新しいルールが始まります。
今回の改正では、契約書に「化学物質の含有量や付着量」を明記することが義務化される点が大きな変更点です。
この背景には、環境中への有害物質流出を防ぐ目的や、廃棄物の再資源化を安全に進めるための化学物質管理強化があります。
特に建設業では、現場で使用する資材や廃棄物の中にさまざまな化学物質が含まれており、元請・下請を問わず、契約内容を見直す必要があります。
この記事では、2026年の廃棄物処理法改正の概要と、建設現場で押さえるべき実務対応のポイントをわかりやすく解説します。
目次
2026年の廃棄物処理法改正で何が変わる?

2026年1月に施行される廃棄物処理法の改正では、産業廃棄物の取り扱いや契約書の記載事項に大きな変更が加わります。
特に建設業では、工事現場から出る廃棄物に含まれる化学物質の情報を契約書に明記する義務が新たに加わることが重要です。
ここからは、規制強化の背景や改正の施行スケジュールと対象範囲を、わかりやすく解説します。
化学物質をめぐる規制が強化される背景
化学物質の管理が厳しくなる背景には、国際的な動向があります。
欧州連合のREACH規制のように、有害化学物質を製造・輸入する際の管理や情報公開が求められるようになっています。
(参考:厚生労働省「欧州REACHについて」)
国内でも、PCBや鉛などの有害物質が環境や作業者の健康に影響を与える事例が増えており、規制強化が必要とされました。
こうした国際的・国内的な動きに対応するため、廃棄物処理法でも化学物質の管理を徹底し、廃棄物の安全な処理と再資源化を進めることが求められています。
改正の施行スケジュールと対象範囲
改正は2026年1月に施行され、産業廃棄物を扱う事業者全体が対象です。
特に建設業や製造業、リサイクル業など、廃棄物を委託処理する企業は契約書に化学物質情報を記載する必要があります。
対象となる化学物質にはPCB、鉛、フッ素化合物などが含まれ、これらが含まれる廃棄物の取り扱いにおいては、排出事業者と処理業者の間で情報を正確に伝達することが義務化されます。
現場では契約更新時にこれらの情報を確認する体制が重要です。
契約書に「化学物質の含有量・付着量」記載が義務化
2026年の改正で最も注目すべき点は、契約書に化学物質の含有量や付着量を明記する義務が新設されることです。
これは単なる書類上の形式変更ではなく、廃棄物処理の安全性や情報伝達の正確性を高めるために不可欠です。
ここからは、なぜ契約書への明記が必要なのか、そして記載すべき具体的な情報について詳しく解説します。
なぜ契約書への明記が必要になるのか
契約書への明記は、元請と下請の責任範囲を明確にするために重要です。
従来、廃棄物に含まれる化学物質の情報が口頭や個別資料に頼っていた場合、処理時に誤解やトラブルが生じる可能性がありました。
改正では、契約段階で含有量・付着量を明示することで、廃棄物処理や再資源化のプロセスにおける情報伝達が正確になり、作業現場での安全管理や法令遵守も確実になります。
これにより、企業間での責任分担も明確化され、リスクを未然に防ぐことができます。
記載が必要な情報の具体例
契約書に記載すべき情報には、化学物質の含有量・付着量の具体的数値や測定方法、さらにSDS(安全データシート)との整合性があります。
含有量とは材料や廃棄物中の化学物質の割合を示し、付着量は表面に残留する量を指します。
またSDSとは、化学物質および化学物質を含む混合物を譲渡または提供する際に、その化学物質の物理化学的性質や危険性・有害性及び取扱いに関する情報を化学物質等を譲渡または提供する相手方に提供するための文書を指します。
(参考:厚生労働省「SDS」)
契約段階では、これらの情報をフォーマット化して明確に記載することが推奨されます。
例えば、「物質名、含有量、付着量、測定日、測定方法」を一覧表形式でまとめることで、処理業者や現場担当者が確認しやすくなり、法令対応やマニフェスト管理も効率化できます。
建設現場が対応すべき3つのステップ

2026年改正に対応するためには、契約書・情報共有・現場運用の3つのステップで準備を進めることが重要です。
これにより、法令遵守だけでなく、現場の安全管理や廃棄物処理の効率化も図れます。
ここからは、具体的な対応ステップを順に解説します。
① 契約書テンプレートの見直し
まず取り組むべきは、契約書テンプレートの見直しです。
化学物質の含有量や付着量に関する項目を新設し、契約更新時には必ず確認する運用ルールを定めることが重要です。
この際、元請・下請間の責任範囲や情報提供の義務を明確化することで、トラブル防止や法令遵守の徹底につながります。
さらに、契約書に記載するデータは、SDS(安全データシート)に基づいた最新情報を必ず反映させ、表形式やチェックリスト形式で整理すると確認漏れを防ぎやすくなります。
また、記載内容を社内で共有し、現場担当者にも周知することで、施工中や廃棄時の化学物質管理が一貫して行われ、実務上のミスや情報伝達の不備を大幅に減らすことが可能です。
② サプライヤー・協力業者との情報共有体制構築
次に、サプライヤーや協力業者との情報共有体制を整備することが重要です。
化学物質情報の収集方法や報告タイミングを明確にルール化し、SDS(安全データシート)の更新状況を定期的に確認する仕組みを作ります。
さらに、デジタルツールやクラウドサービスを活用することで、データの更新や共有が迅速かつ正確になり、現場での誤解や記録漏れを防止できます。
また、情報連携の体制や運用ルールを社内文書として明文化しておくと、契約書遵守の証拠としても活用でき、万が一の行政指導や監査の際にも対応しやすくなります。
定期的なレビューや関係者への教育を組み合わせることで、化学物質管理の透明性と安全性を高め、企業全体の法令遵守体制を強化することが可能です。
③ 現場担当者への教育と運用ルール整備
最後のステップは、現場担当者への教育と運用ルールの整備です。
教育マニュアルには化学物質管理の手順や注意点を明確に記載し、施工中や廃棄時に取るべき具体的な対応方法を周知徹底します。
さらに、チェックリストを用いた日々の確認や、定期的な研修・実地訓練を実施することで、現場担当者が法令対応を実務に落とし込みやすくなります。
運用ルールを標準化し、共有体制を整えることで、情報伝達の漏れや誤解を防ぎ、法令遵守と安全管理の両立が可能となります。
これにより、トラブルの予防だけでなく、企業としての信頼性向上や、CSR・ESGへの対応力強化にもつながります。
見直しを怠るとどうなる?リスクと罰則
契約書や現場運用の見直しを怠ると、法令違反や契約トラブルなど、企業にとって大きなリスクが生じます。
法的責任だけでなく、取引先や社会からの信頼低下にもつながるため、早めの準備が不可欠です。
ここからは、具体的なリスクとその影響について解説します。
法令違反時の行政処分・契約トラブル
まず注意すべきは、契約書に化学物質の含有量や付着量を正しく記載しない場合、行政指導や罰則の対象となるリスクがあることです。
記載漏れや虚偽記載は、排出事業者としての法令遵守義務違反に該当し、元請企業にも責任が及ぶ場合があります。
特に建設現場では、廃棄物の種類や化学物質の特定が不十分だと、後工程での処理トラブルや環境被害にもつながりかねません。
また、契約書の不備は契約自体の無効や損害賠償請求、さらには取引先との信頼関係の低下にも直結する可能性があります。
そのため、契約更新や新規契約の際には、化学物質関連項目の確認を必ず行い、SDS情報や最新の分析データをもとに正確な記載を徹底することが重要です。
これにより、法的リスクを回避すると同時に、企業の信頼性や環境対応力を高めることができます。
環境報告・CSRへの影響
次に、法令違反は企業の社会的評価にも大きく影響します。
ESG経営や入札審査では、環境対応の適正さが重要な評価基準となるため、対応が遅れている企業は競争上不利となる可能性があります。
特に化学物質管理の不備は、取引先や顧客からの信頼を損ない、社会的信用の低下を招きやすく、長期的な事業運営や新規受注にも悪影響を与えます。
また、メディアや業界団体の報告で環境対応が遅れている企業として取り上げられるリスクもあり、ブランドイメージにも影響します。
そのため、契約書の記載内容だけでなく、現場での運用状況や廃棄物管理体制も定期的に見直し、環境報告やCSRへの反映を確実に行うことが不可欠です。
これにより、法令遵守を徹底しつつ、企業の信頼性と競争力を維持することができます。
今からできる実践的な準備チェックリスト
2026年の廃棄物処理法改正に備えて、建設現場では早めの準備が重要です。
契約書や情報管理、現場運用の各ステップをチェックリスト化することで、漏れや不備を防ぎ、法令遵守と安全な化学物質管理を実現できます。
ここからは、具体的に確認すべきポイントと活用できるツールを紹介します。
自社の対応状況を確認するポイント
まず、自社が改正に対応できているかを確認することが大切です。
契約書には化学物質の含有量や付着量の項目があるかをチェックし、SDS(安全データシート)や化学物質データが最新かどうかを確認します。
また、取引先や協力業者との情報連携体制が整備されているかも重要です。
これらを定期的に見直すことで、契約更新や現場運用での漏れを防ぎ、排出事業者としての義務を確実に果たすことができます。
おすすめの支援ツール・外部サービス
次に、対応を効率化するための支援ツールや外部サービスの活用も有効です。
環境省や国立環境研究所の化学物質データベースを利用すると、対象物質や含有量情報を正確に確認できます。
また、民間のクラウドサービスではSDS管理や契約書の化学物質情報をデジタル化でき、更新状況を自動でチェック可能です。
これらを組み合わせることで、現場と事務側の情報連携がスムーズになり、法令遵守と安全管理を効率的に実現できます。
まとめ:2026年改正は「化学物質の透明化」が鍵に
2026年の廃棄物処理法改正では、契約書に化学物質の含有量や付着量を明記する義務が新たに設けられます。
これにより、排出事業者と処理業者の責任範囲を明確化し、廃棄物処理や再資源化の過程で情報が正確に伝わる仕組みが整います。
建設現場では、契約書項目のチェック、SDSや化学物質データの最新化、取引先との情報共有体制の構築、現場担当者への教育が早期に求められます。
これらの準備により、行政指導や契約無効のリスクを回避でき、ESG経営や入札審査での評価向上にもつながります。
さらに、実務的には以下の三本柱で対応すると効果的です。
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契約書の整備:化学物質関連項目を必ず記載
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情報共有体制の構築:SDS更新や取引先連絡ルールを明確化
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現場教育:施工中や廃棄時の管理手順を周知
この三本柱を組み合わせることで、企業の信頼性を高めつつ法令遵守を徹底し、化学物質管理の透明化を実現できます。










