
産業廃棄物は、事業活動に伴って発生する廃棄物のことを指します。
製造業や建設業などの事業者は、自らの責任で適正に処理しなければなりませんが、不法投棄や不適切な処理による環境汚染が問題となっています。
産業廃棄物の種類は、燃え殻や汚泥、廃プラスチックなど20種類に及び、業種によって主な廃棄物の種類が異なります。
処理方法は、中間処理、最終処分、リサイクルに大別されますが、処理施設の確保や排出事業者の意識向上など、様々な課題があります。持続可能な社会の実現に向けて、産業廃棄物の適正処理と発生抑制、再資源化の推進が求められています。
目次
産業廃棄物とは
産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類など20種類の廃棄物を指します。これらは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(通称:廃棄物処理法)で定められています。
一般廃棄物との違い
産業廃棄物と一般廃棄物の主な違いは以下の通りです。
産業廃棄物 | 一般廃棄物 | |
---|---|---|
排出源 | 事業活動に伴って発生 | 家庭や事業所から排出される生活ごみなど |
処理責任 | 排出事業者 | 市町村 |
種類 | 20種類に分類 | 可燃ごみ、不燃ごみ、資源ごみなど |
一般廃棄物は、市町村が処理の責任を負いますが、産業廃棄物は排出事業者が自ら処理するか、許可を持った産業廃棄物処理業者に委託して処理しなければなりません。
産業廃棄物の排出量と推移
日本における産業廃棄物の排出量は、年間約4億トンにのぼります。その内訳は、汚泥が最も多く、次いで動植物性残さ、がれき類、鉱さいなどとなっています。
近年、産業廃棄物の排出量は横ばい傾向にありますが、リサイクル率は向上しており、2020年度には約60%に達しています。
しかし、依然として最終処分場の残余容量は限られており、更なる排出量の削減とリサイクルの推進が求められています。
事業者は、産業廃棄物の適正処理に加え、発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)の3Rを実践し、循環型社会の形成に貢献していく必要があります。
産業廃棄物の種類
燃え殻、汚泥、廃油など20種類
産業廃棄物は、廃棄物処理法により20種類に分類されています。主なものとしては、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類などがあります。
これらは、事業活動に伴って発生する廃棄物であり、排出事業者が責任を持って適正に処理しなければなりません。
以下は、産業廃棄物の20種類です。
- 燃え殻
- 汚泥
- 廃油
- 廃酸
- 廃アルカリ
- 廃プラスチック類
- 紙くず
- 木くず
- 繊維くず
- 動植物性残さ
- ゴムくず
- 金属くず
- ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず
- 鉱さい
- がれき類
- 動物の死体
- ばいじん
- 燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ以外の施設において生じた産業廃棄物
- 輸入された産業廃棄物
- 前述した産業廃棄物を処分するために処理したもので、なおこれらの産業廃棄物に該当するもの
業種別の主な産業廃棄物
産業廃棄物の種類は、業種によって異なります。以下は、業種別の主な産業廃棄物の例です。
業種 | 主な産業廃棄物 |
---|---|
製造業 | 汚泥、廃油、廃プラスチック類、金属くず、ガラスくずなど |
建設業 | コンクリートくず、木くず、がれき類など |
医療機関 | 感染性廃棄物、廃薬品など |
飲食店 | 動植物性残さ、廃油など |
農業 | 農薬の容器、廃プラスチック類など |
事業者は、自らの業種に応じた産業廃棄物の種類を把握し、適切な処理方法を選択する必要があります。
特別管理産業廃棄物とは
産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものを、特別管理産業廃棄物といいます。具体的には、以下のようなものが該当します。
- 廃PCB等
- 廃石綿等
- 廃油(揮発油類、灯油類など)
- 廃酸(pH2.0以下)
- 廃アルカリ(pH12.5以上)
- 感染性産業廃棄物
特別管理産業廃棄物は、通常の産業廃棄物よりも厳しい処理基準が定められており、専門の処理施設での処分が義務付けられています。
排出事業者は、特別管理産業廃棄物の適正処理に万全を期す必要があります。
産業廃棄物の処理方法
産業廃棄物の処理は、排出事業者の責任において適正に行わなければなりません。処理方法は、大きく分けて中間処理、最終処分、再資源化(リサイクル)の3つに分類されます。それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
中間処理と最終処分
中間処理とは、産業廃棄物を最終処分するために、物理的、化学的、生物学的な方法で処理することを指します。具体的には、焼却、破砕、脱水、揮発などの処理方法があります。
中間処理によって、産業廃棄物の減量化や無害化が図られます。
最終処分は、中間処理後の産業廃棄物を埋立処分することを指します。最終処分場には、安定型、管理型、遮断型の3種類があり、産業廃棄物の種類に応じて適切な処分場が選択されます。
最終処分場の残余容量は限られているため、産業廃棄物の発生抑制と再資源化が重要です。
再資源化(リサイクル)
再資源化(リサイクル)とは、産業廃棄物を原材料として再利用することを指します。リサイクルによって、天然資源の消費を抑制し、環境負荷を低減することができます。産業廃棄物のリサイクル率は年々向上しており、2020年度には約60%に達しています。
主なリサイクル方法としては、以下のようなものがあります。
- 金属くずのリサイクル(製鋼原料など)
- 廃プラスチック類のリサイクル(再生プラスチック原料など)
- 木くずのリサイクル(ボード原料、燃料など)
- 汚泥のリサイクル(セメント原料など)
- がれき類のリサイクル(路盤材など)
事業者は、産業廃棄物の種類に応じて適切なリサイクル方法を選択し、リサイクル業者と連携して再資源化を推進していくことが求められます。
適正処理のための規制と管理
産業廃棄物の適正処理を確保するために、廃棄物処理法をはじめとする各種法令で規制と管理が行われています。事業者は、以下のような義務を遵守する必要があります。
- 産業廃棄物の保管基準の遵守
- 産業廃棄物管理票(マニフェスト)の交付と保存
- 産業廃棄物処理業者への委託基準の遵守
- 特別管理産業廃棄物の処理基準の遵守
- 多量排出事業者の処理計画の作成と実施
また、都道府県や政令市では、産業廃棄物処理業者に対する許可制度や立入検査等を実施し、不適正処理の防止に努めています。
事業者は、行政機関と連携しながら、産業廃棄物の適正処理を推進していくことが重要です。
産業廃棄物の処理は、事業者の責任において適正に行わなければなりません。中間処理、最終処分、再資源化(リサイクル)の各方法を適切に選択し、法令に基づいた管理を行うことが求められます。また、行政機関との連携を図りながら、産業廃棄物の発生抑制と再資源化を推進し、循環型社会の形成に貢献していくことが重要です。
産業廃棄物処理の課題と対策
不法投棄の現状と防止策
産業廃棄物の不法投棄は、環境汚染や健康被害を引き起こす深刻な問題です。
不法投棄を防止するためには、排出事業者の意識向上と適正処理の徹底が不可欠です。
行政機関は、監視体制の強化や罰則の適用などにより、不法投棄の撲滅に努めています。また、不法投棄の早期発見・対応のために、住民や事業者からの情報提供も重要です。
不法投棄防止のための具体的な対策としては、以下のようなものがあげられます。
- 排出事業者の教育・啓発活動の実施
- 産業廃棄物管理票(マニフェスト)の適正運用
- 電子マニフェストの普及促進
- 不法投棄監視カメラの設置
- 行政機関による定期的な立入検査の実施
排出事業者は、適正処理の重要性を認識し、信頼できる産業廃棄物処理業者に委託するとともに、マニフェストの管理を徹底することが求められます。
処理施設の確保と技術開発
産業廃棄物の適正処理を推進するためには、処理施設の確保と技術開発が重要な課題となります。
特に、最終処分場の残余容量は限られており、新たな処分場の確保が困難な状況にあります。そのため、中間処理施設の整備や既存施設の延命化、再資源化の促進などが求められています。
また、環境負荷の低減や処理効率の向上を図るため、新たな処理技術の開発も進められています。例えば、以下のような技術が注目されています。
- ガス化溶融炉による高効率な焼却処理
- バイオマス発電による廃棄物のエネルギー利用
- AI・IoTを活用した処理工程の最適化
- リサイクル技術の高度化(化学原料化など)
行政機関は、処理施設の整備や技術開発を支援するとともに、事業者間の連携を促進することが重要です。また、民間企業の知見やノウハウを活かした官民連携(PPP)の取組みも有効です。
排出事業者の責任と意識向上
産業廃棄物の適正処理は、排出事業者の責任において行わなければなりません。
排出事業者は、自らの事業活動に伴って生じる産業廃棄物の種類や量を把握し、適切な処理方法を選択する必要があります。
また、処理業者に委託する場合は、許可を持った信頼できる業者を選定し、マニフェストの交付・管理を徹底することが重要です。
しかし、排出事業者の中には、コスト削減を優先するあまり、不適正な処理業者に委託したり、マニフェストの管理を怠ったりするケースも見受けられます。そのため、排出事業者の意識向上が課題となっています。
排出事業者の意識向上のためには、以下のような取組みが有効です。
- 産業廃棄物処理に関する教育・研修の実施
- 優良事例の共有や表彰制度の導入
- 業界団体による自主的な取組みの推進
- 行政機関による指導・助言の強化
排出事業者一人ひとりが、産業廃棄物の適正処理の重要性を認識し、積極的に取り組んでいくことが求められます。
産業廃棄物処理の課題解決には、排出事業者、処理業者、行政機関など、多様な主体の連携が不可欠です。不法投棄の防止、処理施設の確保、排出事業者の意識向上など、様々な課題に対して、総合的かつ継続的な取組みを推進していくことが重要です。
まとめ
産業廃棄物とは、事業活動に伴って排出される燃え殻、汚泥、廃油など20種類の廃棄物を指します。
排出事業者は、自ら適正に処理するか、許可を持った処理業者に委託しなければなりません。
処理方法は中間処理、最終処分、再資源化に分類され、種類に応じて適切な方法を選択することが重要です。
不法投棄の防止、処理施設の確保、排出事業者の意識向上など、様々な課題に対して、関係者が連携して取り組むことが求められています。