
世界人口は増加傾向にあり、世界規模で見てもエネルギー消費量は増え続けています。エネルギー問題は世界で重要視されており、将来的に化石燃料が枯渇する心配もあるため対策が必要です。そんななか、近年注目を集めているものが「バイオマス燃料」です。
この記事では、バイオマス燃料の概要から種類、注目される理由、メリット・デメリット、活用事例を解説します。
目次
バイオマス燃料とは
バイオマス燃料とは、動植物から生まれた再生可能な生物資源から作る燃料です。バイオマスは「Bio(生物)」と「Mass(量)」を組み合わせた言葉であり、バイオマスの例としては次のようなものが挙げられます。
- 間伐材(未利用系バイオマス)
- サトウキビ、てん菜、トウモロコシなどの農作物(資源作物系バイオマス)
- 生ゴミ、ふん尿などの廃棄物(廃棄物系バイオマス)
など
バイオマスは本来不要とされているものを再利用してエネルギーとすることができ、地球環境にもやさしいため注目を集めています。将来的に石油や石炭などの化石燃料が枯渇したとしても、バイオマス燃料は自然界で作られる資源をエネルギー源とするため、上手に使えば枯渇する心配がありません。
バイオマス燃料の種類
バイオマス燃料は実用化に向けておもに4種類の研究・開発が進められています。それぞれの概要や特徴を解説するため、一つずつ見ていきましょう。
バイオエタノール(Bioethanol)
バイオエタノールはバイオマスを利用して作るガソリンの代替品です。バイオエタノールのおもな原料は次の3種類です。
- 糖質原料(サトウキビ、てん菜)
- でんぷん質原料(コメ、トウモロコシ、麦)
- セルロース系原料(木質バイオマス、麦わら)
このなかでも、糖質原料・でんぷん質原料は実用化されており、セルロース系原料も研究が進んでいるため、今後実用化されることでしょう。現在は、バイオエタノールはガソリンと混ぜられ、自動車用の燃料として販売されていることが多くなっています。
バイオディーゼル(Biodiesel)
バイオディーゼルは、バイオマスを利用して作るディーゼルエンジン用の燃料です。バイオディーゼルの原料にはさまざまな「油脂」が原料となります。その一例としては次のようなものが挙げられるでしょう。
- 植物油(菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油など)
- 獣脂(魚油、豚脂、牛脂など)
- 廃食用油(天ぷら油など)
バイオディーゼルはバイオエタノールと違い、アルコール発酵させる必要がなくシンプルである点が特徴です。バイオディーゼル100%として利用される場合もありますが、軽油と混合して使用されることもあります。
バイオジェット燃料(Aviation Biofuel)
バイオエタノール・バイオディーゼルはおもに自動車向けの燃料です。バイオジェット燃料は、航空機のジェット燃料の代替品として開発が進められています。バイオジェット燃料の原料としては、おもに次のようなものが挙げられます。
- ナンヨウアブラギリ
- アマナズナ
- 藻類
- 牛脂
- ミドリムシ
実際に世界の航空会社は、バイオジェット燃料を使ったテスト飛行に成功しており、バイオジェット燃料の実用性も高まってきています。
バイオガス(Biogas)
ここまでに紹介したバイオ燃料は液体の燃料ですが、バイオガスは気体上のバイオ燃料です。バイオガスは有機廃棄物に対して、微生物を使ってメタン発酵して製造されます。おもに原料となるものとしては次のようなものが挙げられるでしょう。
- 生物のふん尿
- 有機質肥料
- 生物改正物質
- 汚泥、汚水、ゴミなどの廃棄物
バイオガスは幅広い用途で活用されており、車両の燃料源や温水プール・調理ガスなどでの実用化が進んでいます。
バイオマス燃料はなぜ環境にやさしいのか
バイオマス燃料は化石燃料に比べて地球環境にやさしい燃料です。地球環境における課題のなかでも、最も対策が必要とされているものとして「地球温暖化」が挙げられます。地球温暖化は温室効果ガス(二酸化炭素)の排出を抑えることが重要とされていますが、化石燃料は大気中の二酸化炭素を増加させます。
対して、バイオマス燃料の場合は動植物などが成長過程で二酸化炭素を吸収するため、燃料として利用しても実質的に大気中の二酸化炭素は増加しません。バイオマス燃料は大気中に排出される二酸化炭素と、吸収される二酸化炭素の量が等しく全体としてゼロとなる「カーボンニュートラル」を実現するための手段としても注目されています。
加えて、本来であれば廃棄されるはずのものを再利用することで、ゴミの総量を減らすことも期待できるでしょう。これらのことから、バイオマス燃料は環境にやさしい燃料といわれています。
バイオマス燃料のメリット・デメリット
バイオマス燃料を活用することには多くのメリットが存在します。しかし、一方でデメリットも存在するため、メリット・デメリットを理解した上で活用することが重要です。ここでは、バイオマス燃料の代表的なメリット・デメリットについて見ていきましょう。
メリット
バイオマス燃料の最大のメリットは、地球環境にやさしいことです。前述の通り、バイオマス燃料はカーボンニュートラルな燃料であるため、CO2の削減効果が期待できます。それ以外にも、次に挙げるようなメリットがあります。
- 循環型社会の形成、地域の活性化
- 太陽光、風力発電に比べて安定的な発電が可能
- 発電、熱利用だけではない幅広い用途
バイオマス燃料は地球環境で作られる資源を原料としているため、繰り返し利用可能なエネルギー源です。そのため、有限である資源を効率的に利用し、持続可能な形で循環させながら利用する「循環型社会」が形成できるようになります。また、各地域の未利用資源を有効活用できるため、地域の活性化も期待できるでしょう。
加えて、太陽光発電や風力発電と比べると、季節や時間に関係なく、安定したエネルギー供給が実現できるため、安定的な発電も実現可能です。その他にも、発電・熱利用に使うだけでなく、液体燃料や化成品原料、各種素材として利用できるなど、幅広い活用用途がある点もメリットといえます。
デメリット
さまざまなメリットをもたらすバイオマス燃料ですが、次に挙げるようなデメリット・注意点も存在します。
- 収集、運搬コストがかかる
- 生態系破壊の可能性
- カーボンフリーではない
バイオマスはさまざまな場所に薄く広く存在しているため、発電などで燃料として利用するためには収集・運搬の必要がありコストがかかります。これらのコストを低減するために、効率的な収集・運搬のための地域活用システムの構築が必要となるでしょう。
また、バイオマス燃料のために森林伐採などが進み、生態系を破壊してしまう可能性も考えられます。基本的には地域の未利用資源を有効活用することになりますが、中規模以上のバイオマス発電所を稼働させるためにはそれだけでは足りません。そのため、バイオマス燃料の一つである「木材ペレット」を、日本は年間数百万トンもの量を北米やベトナムから輸入しています。
海外の森林保全に取り組むNGOは「木材ペレット生産のために貴重な生態系が破壊された」と報告しており、繰り返し利用可能なエネルギー源とはいえ、生態系への影響もしっかりと考慮する必要があります。
また、バイオマス燃料はカーボンニュートラルであってもカーボンフリーではありません。輸送や加工時に排出されるCO2も総合的に見て、CO2の削減を目指す必要がある点は注意点として覚えておく必要があります。
バイオマス燃料の活用事例
日本でも実際にバイオマス燃料を活用する事例が多く報告されています。例えば、石川県小松市の温浴施設では、重油ボイラーを木質バイオマスボイラーに転換しています。燃料として未利用間伐材を利用し、1ヶ月平均15トンのCO2削減を実現しました。
また、日本一高い高層ビルである「あべのハルカス」では、レストランの厨房から出る生ゴミから熱や電気を作るメタン発酵設備「メタファーム」を開発しました。ビル内で発生する生ゴミからバイオガス発電を実現し、ビル内で循環させることでCO2の削減を実現しています。
まとめ
バイオマス燃料は、動植物から生まれた再生可能な生物資源から作る燃料です。大きく「バイオエタノール」「バイオディーゼル」「バイオジェット燃料」「バイオガス」の4種類の研究・開発が進められており、実際に日本でも実用化されています。
バイオマス燃料は地球環境にやさしいというメリットもある反面、いくつかのデメリット・注意点も存在します。バイオマス燃料を活用する際には、メリット・デメリットをしっかりと理解した上で活用することが重要です。