今回は「トリチウム水」について解説します。
目次
トリチウムとは?
トリチウムは、日本語では三重水素と呼ばれています。
酸素と化合して水分子を構成する性質により、身の回りのほとんどのトリチウムは水分子の一部になった状態で存在しています。例として、大気中の水蒸気、雨水、海水、水道水にも含まれています。
自然界に存在するトリチウム水
トリチウムは、人工的に作り出す方法以外にも自然界でも発生しています。「宇宙線(宇宙空間から地球へ常に降りそそぐ放射線)」と地球上の大気が交わることで、自然界でもトリチウムが発生します。
このトリチウムが酸素と結合した「トリチウム水」と呼ばれる状態で、大気中の水蒸気、雨水、海水、水道水に含まれて存在しています。
トリチウムの安全性
トリチウムは放射線の一種であるβ線を出すことで、人体への影響が懸念されています。しかし、トリチウムから放出されるβ線はエネルギーが小さく、紙一枚で遮蔽できるため、外部被ばくによる人体への影響はほとんどないとされています。
また、内部被ばくに関しては、トリチウム水を飲み込んだ場合でも、水と同様に排出され、特定の臓器など体内に蓄積されていくことはないと考えられています。
参照多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書
参照環境省 汚染水対策に関する取組
参照安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策②「トリチウム」とはいったい何?
参照安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策③トリチウムと「被ばく」を考える
福島第一原発事故による汚染水・ALPS処理水・トリチウム水
2011年の東日本大震災にともなって発生した福島第一原発事故では、水素爆発が起こり原子炉内の燃料が溶け落ちてしまいました。「燃料デブリ」と呼ばれる、溶けて固まった燃料は現在も原子炉の内部に存在し、この燃料デブリを冷却させる目的で水をかけています。ここで発生する水が「汚染水」と呼ばれ、高濃度の放射性物質を含みます。
汚染水は、多核種除去設備(ALPS)などによって浄化処理し、放射性物質をできる限り除去します。しかし、多核種除去設備を駆使しても、トリチウムは水分子の一部として存在するため除去が困難です。このようにトリチウムを含んだ“多核種除去設備などで処理した水”を「ALPS処理水」と呼びます。現在、このALPS処理水の処分が課題とされています。
この“多核種除去設備などで処理した水”を、汚染水処理対策委員会の下に設置された「トリチウム水タスクフォース」の報告書では「トリチウム水」と呼んでいいます。
海洋放出を含む5つの処分方法とは?
「多核種除去設備など処理水の取扱いに関する小委員会」は、2020年1月に17回目の会合を行い、同年2月に同小委員会の報告書を公表しています。
この報告書では、“多核種除去設備等で処理した水”は、トリチウム水ではなくALPS処理水と呼び、以下のような5つの処分方法が検討されていたことを公表しています。
これら5つの処分方法のうち、地層注入、水素放出、地下埋設は、規制的・技術的・時間的な観点から課題が多いことから、技術的に実績のある水蒸気放出や海洋放出が現実的な選択肢であると考えられています。
水蒸気放出について
水蒸気放出は、過去にボイラーで蒸発させる方式での事例があり、海洋放出と同じく放射線による影響は自然被ばくと比較して十分に小さいと考えられています。しかし、液体放射性廃棄物の処分のために液体から気体にして蒸発させるという水蒸気放出を行った国内例がない点や、いくつかの核種は放出されずに乾固して残ることが予想される点が留意点として挙げられています。
海洋放出について
海洋放出は、通常炉で海洋放出を行ってきた実績・設備の取り扱いの容易さ・モニタリングのあり方という点から、水蒸気放出よりも確実に実施できると考えられています。留意点としては、排水量とトリチウム放出量の量的な関係は、原発事故前と同じにはならない点が挙げられています。
参照経済産業省 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書について
参照安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策⑦ ALPS処理水に関する専門家からの提言
まとめ
現在、一部のメディアを通し「トリチウム水」の海洋放出にともなう漁業への影響が指摘されています。
この海洋放出という処分方法は、技術的な問題だけでなく、漁業関係者や地元住民への理解、実行した際に想定される風評被害への対策など長期的計画と対応が必要になります。国内だけでなく海外からも注目されるこの問題を、どう解決していくべきなのか、未来のために考えなくてなりません。